昨日のこと

 

 

空を見ると時々、過去にあったいつかの断片的な記憶と感情が想起されることがある。

小学生の時にみた夏の空。たぶん学校の帰り道。とっても大きな、とっても青い空。

カラカラと乾いていて何もない、空っぽの。焼けるようなアスファルトと小さくて黒焦げた身体と自分の家のこと。

 

そんな風に私が空をみて思い出す事を話すとあなたは「それはあなたが空がよく見えるところで育ったからだよ」と言った。

 

音楽、曲を聴くにしてもそういうことがある。

何処かの草むら、でもそれがどこだか分からない。たまに思い出す。どこだろう。立川のあの公園。たぶん、たぶんそうだと思う。

 

そういえばあなたとは立川のあの公園で1年半前、花火大会に行った。でも、その前に付き合っていた人とも同じように行った。会場に着いた途端にひどい雨が降ってきて、帰りはその人と喧嘩をして帰った。喧嘩の理由は思い出せない。いや、思い出したくない。

 

昨日の夜、あなたと電話をしながらみた星空はいつも自分が飛行機に乗る時の事を思い出した。沖縄に広島に、そして台湾に。いつも飛行機に乗ると乗った後はとても楽しい事が待っている。沖縄で会った人々、島、市場の野菜、すごいスピードで走る船、砂浜。広島ではカップルの喧嘩に巻き込まれて女の子の方に殴られたことがあった。そんなこともあった。

 

私は今、台湾にいる。もう2ヶ月経った。あなたは日本で私は台湾だから会えない分、電話をよくする。

でも、この頃喧嘩をすることが増えた。

私はあなたを親友だと思ってる。だからどんな事でも言う、そしてどんな事でも分かってくれると思っていた。でも、あなたは最近私の言うことに対して「何を言ってるかわからない」と言うし、「混乱させないでほしい、怖い」とも言う。

 

私はちゃんと説明しようとした。一緒にいる頃は大きなクロッキー帳に時系列とあった出来事や心の動きを2人分書いたり、泣きながら人生で起こった事を全部話した事もあると思う。そうすれば必ず納得してくれた様に思う。

 

でも、昨日あなたは「そうやって説明すれば分かると思ってるの?、疲れた」と言った。

 

私には他の人にいるような友人、親友、仲の良い他者というのがいない気がする。ずっとずっとそうだと思う。だから彼のことをただ1人の親友だと思っていた。

 

朝の4時、コンビニ前のベンチで携帯と缶チューハイを両手にバイクが目の前の道路を通り過ぎていくのを見ていた。

日本は朝の5時。彼の母親が起きてくるそうで電話を切りたい、朝からうるさくしてると思われたら気まずいのだと彼は言う。

 

私は突然のことに腹を立てた。

まだ暗い夜道を寮までひとりで帰るのは少し心配だったし寂しかったから寮に帰るまで電話を続けて欲しかった。

 

でも、腹を立てられても困る、早く起きてくる母親に言ってほしい、それにそんなんなら夜中に外に出てお酒なんか買いに行かなきゃよかったじゃないかと彼は言った。

いつも自分のことばかりだと。
こっちの状況も少しは汲んで欲しいと言う。

 

そうだ、そうだけど。

 

私に友達がいないからだろうか。

私に友達がいないからこんなことになってしまうんだろうか。

私はよく身体が分裂して真ん中に大きな溝ができるような感覚になる。バラバラになりそうでいても立ってもいられなくなる。

 

でも、空は繋がっている。私が見ている月は、オリオン座は彼を見ているのだ。彼もまた、月やオリオン座を通して私をみている、と思っていた。でも東京で生まれた彼は空をみても何も思い出さないと言う。

 

徐々に朝日の差し込む窓際のベットで自分の一番寝心地の良い体勢を何度も試してから私は眠りについた。

 

あの草むらは何処なのか、どの記憶と、何と結びついているのか今だに分からない。

大半のことは分からない。ほぼ記憶喪失のように人生は進んでいく。あなたが言ったこともすぐ忘れてしまう。私はこんがらがっていつも口喧嘩で負けてしまう。

 

誰とどのように過ごしても、とても深く、仲良くなってもきっと過ぎ去って、負けてしまう。

占い師に26歳で運命の人と会えると言われた。その事だけが脳裏に浮かんでいた。

 

また飛行機に乗ろう、また。

 

そうして私は気を失い、再び起きたのは昼の12時過ぎだった。